先生

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先生





  「先生」僕はそう呼ばれている。
  “先に生きている”という意味で、それ以上の意味はない。


   池袋は渋谷ほど子供っぽくないし
  新宿ほど大人っぽくもないが、欲しい物はほぼ揃うし
  遊ぶ場所もそれなりにあった。
  大学が池袋にあったおかげで、かなり詳しくもなった。
  少なくとも、マクドナルドの場所は7ヶ所完璧に知っている。
  もちろんバイトの数もそれなりにある。
  塾講師の仕事は、一人暮らしを始めた頃に
  求人雑誌で見つけた。
  なぜ塾講師を選んだかと言われても、よくわからない。
  とにかく大学の講義が終わると、僕は自転車に乗って、
  ビックリガードをくぐり東口にあるバイト先へ急いだ。
  そして、夕方から週4で「先生」になった。


   塾には実に様々な人間がいた。小学生から高校生、
  そして全体を仕切るのは本物の社会人だ。
  そこは、まるで時代の感性がうずまく動物園のようだ。
  そして僕は、その中間の大学生だ。
  生徒とは部活や青い恋愛の話をするし、
  上の人といっしょに飲みに行くとやはり
  性欲的恋愛について話した。
  どちらもそれなりの楽しみ方があった。
  そう、僕は過去と未来の間で、行ったり来たりサーフィンを
  しているのだ。どちら側に流れることもなく…


   世の中は、僕らがteenagerをやっていた頃とは、
  明らかに変化していた。
  高校生はまだ大学生の幼虫みたいなものだが、
  中学生は早くも援助交際をし、
  小学生に至っては携帯を持ちパソコンで遊んでいる。
  僕が見ているのはごく一部にすぎないのかもしれないが、
  昔、勉強と部活をこなしファミコンで遊んでいれば、
  何となくやっていけた時代とは違うようだ。
  「ドラゴン・クエストV」がひどく懐かしい。
  そして伝説へ…だ。


   僕は、もともと初対面が苦手ではなかったのが幸いして、
  生徒とも頻繁にメールを交わしている。
  いつも寝ようかと思っていると、
  鈴木あみの受待画面や浜崎あゆみの着メロなどが
  送られてくる。別に悪い気はしない。


   それに対しては、
  [明日の体育マラソンでしょ?
   早く寝て、がんばれよ!おやすみ(^−^)v]
  などと、さわやかに返信する。んっ?早く寝て!?
  これって、修学旅行のときに自分達が言われたのと、
  同じセリフじゃないか。
  見回りの体育教師が行ってしまうと、
  またどこからともなくヒソヒソ話が聞こえてくる、
  ってアレだ。
  夜中なのにエネルギーがあり余って、
  それをアウトプットする場所すら見つけられなくて、
  いつまでも2人以上でダベっている…そんな感覚。
  当時は寂しさなんて言葉は使わなかったのだ。
  すっかり忘れていた。


   好きになる相手と、好きになられる相手は、
  まるで違う人種だった。
  やりたい事と、やらなきゃいけない事の間には、
  天の川ほどの差があった。
  今でも、それらの差が縮まったかは定かでない。
  ただ、僕は彼らよりも先にそういった痛みに強くなった、
  あるいは鈍くなったのだ。


   夕日が射しこむある日の教室で、
  僕はぼんやりとしていた。
  「先生は大きくなったら、何になりたかったの?」
  小学2年生が、机から顔を突き出して質問した。
  少し考えてから、


  「もっと大きくなるよ!」
  こう答えて、僕は笑ってみせた。


  その子は眉間にしわを寄せ、
  かけ算の九九ドリルに戻って、
  えんぴつを不器用そうに動かした。
  3×4=12と書き、ふたたび僕の顔を見上げて、
  こう言った…


  (― 〜 ―)b


  「知ってるよ!」





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